ようこそ(基盤研究(C),課題番号:18K00680)

研究目的

伊集院郁子(東京外国語大学)


「書く力」の養成は大学における重要課題であるが,日本の大学への入学を目指す留学生が入学までにどの程度の文章を日本語で書ければ良いのか,具体的な目安が共有されているわけではない。特に海外の日本語教育機関では,作文は添削・評価の負担から避けられることも多く,書く力の向上は自助努力に負う側面もある。
 本研究では,日本語意見文の評価を左右する要因について,評価者要因と学習者(書き手)要因と意見文の特徴という3つの観点から多角的に分析した上で,分析結果に基づき意見文の評価基準と自己評価用ルーブリックを作成し,自律学習を助けるツールの一つとして提供することを目的とする。大学進学を目指す留学生の「日本語で書く力」について多角的に捉え,学習者が自身の作文を評価して自律的に日本語作文の学習を進めるための支援ツールが提供できれば,大きな意義があると思われる。

研究計画(2018年~2021年)

 本研究は,①意見文の分析,②評価結果の分析,③①と②に基づき,評価基準及び自己評価用ルーブリックの作成,④教師及び学習者を対象に評価基準とルーブリックの検証及び改訂,⑥自律学習支援ツールとして成果物の公開を目指している。具体的には,以下の手順で研究を推進する。
  1. 日本語・韓国語・中国語・英語を母語とする大学生による「日本語意見文」30編と大学教員44名による「意見文の評定結果」に基づき,評定結果のレベルごとに,意見文を内容・構成・言語・形式面から特徴づける。内容や構成に関しては,談話分析の手法を用いた質的分析に加え,「KH Coder」(開発者:樋口耕一氏)による計量テキスト分析も試みる。また,言語や形式に関しては,日本語の文章解析システム「jReadability」(開発者:李在鎬氏)による解析も取り入れる。これにより,機械による解析で瞬時に判断できる特徴と人による分析が不可欠な特徴を洗い出す。
  2. 大学教員44名による「評価コメント」のコーディングを行い,評価コードを抽出する。その際に,機械による言語解析だけでは明らかにできない評価項目も網羅的に洗い出し,その特徴を分析する。
  3. 上記②で洗い出した評価項目を精査し,重回帰分析や因子分析等の統計的手法を用いて各評価項目の重みと項目間の関連の強弱を明らかにした上で評価項目を集約させ,評価基準(案)を策定する。評価基準(案)を参照し,学習者が自己評価で用いることを想定したルーブリック(案)も策定する。
  4. 評価基準(案)については大学教員を対象に,ルーブリックについては日本語学習者を対象に,その提示の有無による効果を検証し,必要な改訂を行う。大学教員に対する分析は,評価基準を利用せずに包括的評価を行った際の評価結果(収集済み)との比較を行う。学習者に対する分析は,ルーブリックの使用の有無による執筆プロセスの記録やフォローアップインタビューによる調査,自己評価結果をデータとしてその効果を検証する。検証結果を経て,必要な改訂を行ったうえで評価基準とルーブリックを完成させる。
  5. 研究成果を日本語学習者による自律学習に役立てるため,本研究の研究分担者である李在鎬氏が開発した「jWriter:学習者作文評価システム」(https://jreadability.net/jwriter/)との連動のし方について検討し,ウェブ上にプラットフォームを構築し,「作文自律学習支援ツール」として公開する。

謝辞

 本研究は,科研費基盤研究(C)一般(課題番号 18K00680)の助成を得て行っています。

2018年度

jWriter「学習者作文評価システム」ワークショップ開催[2018年7月23日(月)]

観測史上初めて40度を上回る中,東京外国語大学留学生日本語教育センターにて,jWriterを用いた作文評価に関するワークショップを開催しました(講師は李在鎬さん)。30名ほどの日本語教育関係の教員や大学院生が集まって,機械による作文評価システムの特徴や開発の裏側を知り,その利用法や今後の可能性について考える良い機会となりました。(研究会のポスターはこちら